アドラー心理学㉕人生の主役を交代させて、自立して生きる

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    今日のテーマ

    さあ、いよいよ最終回ね。

    前回からの続きで、『愛の課題』を乗り越える話で締め括るわ。

    愛の課題で、最初にやるべきなのは『決断すること』だったな。

    傷つくことや、ツライ思いから逃げずに、腹を括って「この人を愛する」と決断する。

    その次は何をすればいいんだ?

    具体的な話に入る前に、ちょっと思い出して欲しいわ。

    task

    3つある『人生の課題』は、それぞれ追求するものが違ってたわよね?

    そうだな。追求するものの違いは、こんな感じだったぜ。

    仕事は 自分 の幸せ
    交友は 相手 の幸せ
    愛は ふたり の幸せ

    ここで、それぞれの課題の『主役』が誰なのかをハッキリさせるわよ。

    仕事は わたし
    交友は あなた
    愛は わたしたち

    仕事の課題では、自分が第一だから『わたし』が主役になるって事か?

    そうね。交友の課題では、相手が第一だから『あなた』が主役。

    愛の課題では、ふたりが第一だから『わたしたち』が主役ね。

    ‥‥それは何か意味があるのか?

    わたし・あなた・わたしたち

    それぞれの課題の『主役』をハッキリさせたら、何かわかるのか?

    まぁ、そう結論を焦らないでよ。

    仕事と交友の課題を乗り越えた人は、『わたし』『あなた』も大事にできるって事ね。

    ‥‥まぁそうなるんだろうな。

    ここまで来て、やっと最後の段階に進めるのよ。

    自分を優先するのではなくて、相手を優先するのでもない。

    自分を大事にすると同時に、相手のことも大事にできる。

    そんな「ふたりで一緒に」幸せになる道を選べるようになるの。

    「わたしが」じゃなくて、
    「あなたが」でもなくて、
    「ふたりで」幸せになる道?

    そう。人生の主役を『わたしたち』に変えるのよ。

    人生の主役を交代させる

    そんなことできるのか?

    わたしの人生の主役は、わたし以外にありえない気がするんだけどな。

    おっしゃる通りよ。

    自分じゃなくて『あなた』が主役になってしまったら、

    自分より他人を最優先に考える、自己犠牲の人生になってしまうわ。

    そうだと思うぜ。自己犠牲は続かないって霊夢は言ってたんだぜ。

    でも『わたしたち』を主役にすることは出来るのよ。

    『わたしたち』には自分も含まれるからね。

    単純な例えとして、転職をしようか悩んでいる人がいるとするわよ。

    『わたし』が主役の人生だったら、この転職が自分にとってどうなのかを考えるでしょうね。

    『わたしたち』が主役だったら、ふたりにとってどうなのかを考えるんじゃないかしら。

    ‥‥なんとなく言いたい事はわかるんだけどな。

    自分のことも、相手のことも同じように大事にする。

    自分勝手でも、自己犠牲でもない。

    楽しいことも、つらいことも、ふたりで分かち合って生きていく。

    そんな関係だろ?素晴らしいんだぜ。

    そうよね。でも、何か納得できないみたいね。

    なんかしっくりこないんだよな‥‥

    『わたしたち』を主役に考えるだけで、ホントにふたりで幸せになれるのかなって‥‥

    自分が幸せになるだけでも大変なのに、そんな都合よくふたりで幸せになれるのか?

    魔理沙の疑問はもっともだと思うわ。

    『わたし』から『わたしたち』に、人生の主役を変えないといけない理由。

    そこをもっと掘り下げて説明するわ。

    究極の、共同体感覚

    『わたし』が主役の人生でも、幸せに生きることはできると思うんだぜ。

    だって『わたし』の人生だ。

    自分勝手な生き方が正解だとは思わないが、自分を優先するのは仕方ないんじゃないかな。

    その通りよ。一度きりの人生なんだから、自分のために生きればいいの。

    じゃあ、どうしてアドラーは、わたしの人生を捨てて、わたしたちの人生を選べと言うんだ?

    それはね、
    『最高レベルの共同体感覚』を身に付けるための、最初の一歩だからなの。

    ・・・?
    最高レベルの共同体感覚?

    そうよ。アドラー心理学が理想とする境地だわ。

    なに言ってんだ霊夢。

    共同体感覚ってのは、共同体の中に自分の居場所を感じられる事だぜ?

    そうね。
    「自分はここに居てもいいんだ」と思えるような感覚ね。

    そういう感覚を持てるように、他人に貢献する話を、今までずっとしてきたんじゃなかったか?

    その通りよ。

    それよりも、さらにレベルの高い共同体感覚があるってことか?

    そうなのよ。だいぶ前の話になっちゃうけど、わたしがこう言ったのを覚えてるかしら?

    「ラスボス級の共同体感覚がある」

    あーーなんか、アドラー心理学の全体像を教えてもらった時に聞いたような気がする。

    さらっと話しただけだから、うろ覚えでも無理はないわ。

    そんな『究極』とも呼べる共同体感覚が存在するのよ。

    共同体と溶け合う感覚

    それって、どんな感覚なんだ?

    簡単に言うと、自分と共同体が一つに溶け合うような感覚ね。

    共同体の中に自分の居場所を感じる、というレベルの話じゃない。

    自分が共同体そのものになってしまうような感覚なのよ。

    共同体そのもの?
    自分と共同体が一体化するのか?

    そんな感じよ。

    まずは一番小さい共同体の『ふたり』の関係で、その感覚を養う。

    それができれば、もっと大きい共同体に範囲を広げていく。

    ゆくゆくは、世界や宇宙と一体となっていく。

    『わたしたち』の人生を選ぶのは、その第一歩というわけね。

    ‥‥なんかスケールが大きすぎて、ピンとこない話だぜ。

    世界や宇宙と一体になるなんて。

    アドラー自身も『到達できない理想』だと言ってるくらいだからね。

    こんな話を聞いて、アドラーの元を離れる人もたくさんいたのよ。

    こんなの心理学じゃないってね。

    そうだろうな。わたしが思ってる心理学とも全然ちがうぜ。

    なんか宗教っぽい話だ。

    共同体感覚は神様じゃないわよ。

    あえて宗教っぽく言うなら、仏教の『他力』の考え方に近いかしらね。

    わたしも頭では理解してるつもりだけど、世界と一体になるような感覚は持ててないわ。

    もうちょっとわかりやすいような、スケールの小さな例え話は無いのか?

    そうね‥‥ こんな経験がある人は居るかもしれないわね。

    普段、高校野球をまったく見ないのに、母校が出場したら見てしまう。

    ありがちな話だが‥‥
    それって共同体感覚なのか?

    そうね、とても単純な例だけどね。

    知ってる選手も、知ってる先生も、誰も出ていないのに、

    「自分が出た高校だ」というだけで、どこかつながりを感じる。

    勝ったら嬉しくなって、負けたら、なんか悔しい気持ちになる。

    たしかによく考えたら変な話だな。
    全然知らない子の試合なのにな。

    嬉しいとか悔しいとか思うのは、心のどこかで『自分のこと』のように感じてるからだわ。

    知らない高校生の試合を、自分のことのように感じたら共同体感覚だわ。

    『同じ高校』っていう共同体を感じてるのか?

    でしょうね。時を超えて、在校生と卒業生の垣根を越えて、うっすらと感じる共同体感覚ね。

    その高校を『共同体』と捉えて、何々年度の卒業生という、自分の居場所を感じてるんでしょうね。

    だれも卒業してなかったら、その高校は存在してないはずよ。

    そうだな。
    その高校という共同体の存在に、多少なりとも貢献しているはずだぜ。

    生徒会長をやったり、部活で頑張ったり、その高校が誇る輝かしい記録・成績を残していたり‥‥

    そんな『貢献』をしていたら、その人の共同体感覚はさらに強いはずね。

    なるほど。
    貢献の度合いが高くなれば、その分、共同体感覚も強くなるはずだな。

    『自分のことのように感じる』というのがポイントよ。

    他人のことなのに自分のことのように感じたら、それは共同体感覚だわ。

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    愛する対象が拡がっていく

    ひいきのチームが勝つと嬉しいのも、たぶん共同体感覚なんだな。

    ああそっか。魔理沙の好きなプロ野球で例えた方がよかったかな。

    たしか日本ハムファイターズのファンだって言ってたわね。

    魔理沙が日ハムのファンになったのは、何か理由があるんじゃないの?

    私は稲葉篤紀のファンだったんだ。

    稲葉を応援してたら、そのうち所属チームの日ハムが好きになって、引退したあとも応援してるって感じだな。

    へえ、なかなかマニアックね。

    なに言ってんだ霊夢。

    稲葉は日本代表チームの監督もしたんだぞ。超有名選手だ。

    そうなのね、ごめんごめん。

    たぶん魔理沙には、稲葉との共同体を感じる何かがあったんでしょうね。

    その共同体感覚が育って、日本ハムファイターズという大きい共同体に、範囲が広がったんじゃないかしら。

    そうかもしれないな。

    稲葉とのつながりから、他の選手を知っていくうちに、範囲が広がっていったんだと思うぜ。

    テレビの前で応援したり、球場に足を運んだり。

    そんな『貢献』が、魔理沙の共同体感覚を育てていったんだと思うわ。

    なるほどな‥‥

    自分のことに置き換えたら、愛の課題がなんとなくわかってきたぜ。

    わたしはどこかのタイミングで「稲葉を愛する」と決断したんだな。

    そして『稲葉とわたし』という、ふたりだけの共同体が出来上がった。

    そんな流れかもしれないわね。

    稲葉の出番が無くなったら、共同体が壊れてしまう。

    だから私は一生懸命、応援した。

    北海道までの旅費を稼ぐために、バイトも頑張った気がするぜ。

    日ハムのホームは北海道だったわね。

    そう。だから宿泊費もかかるから頑張ったんだぜ。

    こういう『貢献』をしているうちに、共同体感覚が育ったんだな。

    そうだと思うわよ。共同体に貢献すれば、共同体感覚が育つ。

    さすがに『人生の主役』を入れ替えるところまではいかなかった?

    『わたし』が『わたしたち』に変わるような‥‥

    さすがにそこまではな。

    しゃべったことも無い相手だし、この共同体は一方的なものなんだぜ。

    まぁそうね。

    でも稲葉が調子を落としている時は落ち込んだし、

    2000本安打を達成した時は自分のことのように嬉しかったな。

    そうこうしてるうちに、チームのことも好きになっていったのね?

    稲葉を通じて、チームメイトにも興味を持つようになったんだ。

    よく考えたら当然だよな。稲葉と一緒に戦う仲間なんだから。

    稲葉を愛することから始まって、チームを愛するようになったのね。

    魔理沙の共同体感覚が、個人からチームに範囲が広がった。

    ここまでくると、次のステージも想像つくんじゃない?

    ‥‥なんとなく見えてくるな。

    パリーグ全体を愛して、日本球界全体を愛して、野球全体を愛する。

    そうやって範囲が広がっていく人もいるだろうな。

    わたしは残念ながら、そこまでじゃないけど‥‥

    魔理沙の場合は、人生の主役が交代するほどのレベルではないから、そこまでは進まないんでしょうね。

    でも、プロの選手やOB、指導者や球団の経営者とかの中には、

    人生の主役が『野球界と自分』という『わたしたち』になっている人がいるでしょうね。

    それはいるだろうな。

    人生の主役が、共同体に自分を含めたわたしたちに変われば、共同体感覚の範囲が広がっていく。

    自分が中心の人生から抜け出して、

    「自分を含めた共同体が中心の人生」に変わっていくんだな。

    貢献して、仲間になって、協力し合うことで喜びが増していく。

    そうやって、究極の共同体感覚に近づいていく‥‥

    その通り。
    それが「愛の課題を乗り越える」という行動なのよ。

    ‥‥稲葉とわたしの共同体は、ちょっと距離がありすぎるけどな‥‥

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    親子の関係からは逃げられない

    稲葉と魔理沙の共同体は、愛の課題の起点としては、距離がありすぎるかも知れないわね。

    ちなみに一番距離が近い、愛の課題の相手は誰だと思う?

    急に話が変わったな。

    それは自分が「愛する」と決めた、近くの人じゃないのか?

    離れることができない、もっと近くに愛すべき人がいるわ。

    それが、子どもよ。

    ああ、そういうことか。

    実は『愛の課題』で一番難しいのは親子関係なのよ。

    そうなのか?
    子どもは他人と違ってどこにも行かないし、愛する以外の道はないんだから、考えることは少ない気がするぜ。

    子ども以外の他人を愛するときは、自分で相手を選ぶことができる。

    この人を愛する、と決断した後でも、暴力を振るわれたり、

    どうしても協力し合える関係になれなかったら、離れることが出来るわ。

    育児はそうはいかないな。

    その通りね。子どもを愛することからは逃げられない。

    環境によっては、育児のストレスは半端ないものになる。

    共同体感覚が育っていない親だと、逃げる人も出てくるわね。

    子どもを愛することから逃げる‥‥
    イヤな予感がするな‥‥

    育児放棄や虐待。さらに最悪な状況も考えられるわね。

    イヤな話だな。

    でも世の中を見渡したら、今もどこかで絶対に行われてるんだよな‥‥

    児童虐待の摘発件数は、毎年増え続けているわ。

    相談件数は年間15万件を超えるの。

    そんなにか。知らなかったんだぜ。

    『自分も含めた家族』という共同体を、大切にできる感覚が育っていたら、このような結果にはならないかも知れないわね。

    たしかにな。

    まあ、環境がひどすぎる場合もあるんだろうが‥‥

    共同体感覚が育っていたら、と考えてしまう霊夢の気持ちは理解できるぜ。

    わたしが主役の人生を抜け出して
    自立する

    そろそろ最後の話に入るわ。

    『自立』について解説して、終わりにするわよ。

    最後が自立なのか?なんか意外だぜ。

    自立は愛の話の続きなのよ。
    そして、もう答えは出ているわ。

    へぇ、ならすぐわかりそうだな。

    そうなのよ。ちなみに自立してる人って、どんな人をイメージする?

    そうだな‥‥ 普通に考えると、他人に頼らず生きていける人かな。

    一般的な答えはそんなところよね。

    でも「人間はひとりでは生きていけない」という事を考えると、ちょっと極端な答えだと思わない?

    たしかにな。なんかひとりぼっちで寂しい感じもするな。

    アドラー心理学での『自立』は、こういう意味になるのよ。

    自分が中心の人生から抜け出すこと

    ああ、それはさっきわたしが言った言葉じゃないのか?

    そうよ。魔理沙はさっき、見事に愛の課題をまとめてくれたわ。

    愛の課題を乗り越えれば、自分が中心だった人生から、自分を含めた共同体が中心の人生に変わる。

    貢献して、仲間になって、協力し合うことで喜びが増していく。

    そうやって愛の課題を乗り越えて、究極の共同体感覚に近づいていくのよ。

    人生の主役が『わたし』から『わたしたち』に変わることで、乗り越えられるんだよな。

    まさにそうだわ。

    幼い頃は、親がなんでも世話を焼いてくれた。

    愛されることが当たり前の、自分が中心の世界を生きてきた。

    でも、大人になった私たちは『自立』しなきゃいけない。

    自分が中心だった『家族』という共同体を抜け出して、別の共同体で幸せを見つけないといけない。

    その為には、愛されることを求めるのではなくて、他人を愛することを覚えないといけないのよ。

    なるほどな。そこで乗り越えないといけないのが愛の課題だな。

    愛するひとを決めて
    愛することを決断する


    人生の主役が変わるくらいに、真剣に貢献して、協力し合える関係になれることを目指す。

    新しい共同体を作り上げて、そこに居場所を見つけて、自分が中心の人生から抜け出す。

    つまり、自立 を果たす。

    これでやっと、今までのすべての話がつながったはずよ。

    『人生の目標』を見てみて。

    魔理沙には、もう理解できるはずよ。

    たしかに。初めて見たときはピンと来なかったけど、今は分かるぜ。

    ありふれた言葉が並んでるが、いろんな意味を含んでいるんだな。

    自立していて、社会とうまく馴染んでいて、自信があって、協力し合える仲間の中で生きている。

    この目標を達成した人は、幸せな人生を送っていそうだぜ。

    共同体感覚と人生の課題を行き来すれば、そんな幸せな人になれるのよ。

    全部つながってるんだもんな。

    ありのままの自分を受け入れて、他人を無条件に信頼する。

    そして、自分の為に、相手の為に、お互いの為に貢献していく。

    居場所を感じつつ、貢献感を得て、勇気を補充しながら、また貢献する。

    うんうん。

    もしそんな良い循環に入れたら、究極の共同体感覚に近づけるのよ。

    新しい共同体を作り出して自立する能力も、自然と身についてくるはずよ。

    すべてがつながったな。
    アドラー心理学って奥が深いんだぜ。

    まだまだ、伝えきれてないことがたくさんあるんだけどね。

    でも一連の流れで解説するのは、これで終わりにするわよ。

    次からはもっと細かく、みんなが悩みがちな問題を話していこうと思うわ。

    それはいいな。

    最近、年上の人が部下になって、ちょっとギクシャクしちゃってるんだぜ。

    そんな話もしてくれるんだろ?

    そうそう。アドラー心理学を使って、解決策を紹介していくわよ。

    嫌われる勇気の徹底解説

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